リベラルアーツ教育で得たもの

警察官になりたいと思ったのは、高校生の時に見た、幼児虐待死亡事件のニュースです。親が自分の子どもに暴力をふるって死亡させるという現実にショックを受けました。同時に、助けを求める子どもたちに対して何もできない自分自身に無力感を感じ、子どもの安心?安全な社会をつくる一助になりたい、貢献したいと思ったことがきっかけです。
卒業したいまも、1年次に受けた『聖心スピリットと共生』授業のレジュメは全部残しています。この授業ではじめて、見返りを求めない愛、他者を愛することの意味、愛されることの大切さなど、キリスト教の精神を学び、生きるとはどういうことなのかということを深く考えさせられました。この授業が、いまの自分の核のひとつになっているように思います。
1年次に専攻に縛られなかったことは、広く教養が身につくだけでなく、興味ある授業を学科関係なく履修したことで視野が広がり、ひとつの物事に対して複眼的な視点を持つことに繋がりました。また、自分の適性や関心に気づくことが出来、学科に進んでからの学びに集中できました。
専攻学科では、子どもが安心できる社会の在り方を自分なりに模索したいと思い、家族の関係性や、家族が抱えている課題などについて学べる「家族社会学」ゼミに入りました。
相手の目線に立つことの大切さを、聖心で学んだ
夏休みに約一か月、地元沖縄の児童養護施設へボランティアに行きました。
そこにはさまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちがいましたが、入所している子どもの9割が虐待を受けた子どもたちでした。それでも届くはずもない家族に手紙を書いたり、居場所もわからない家族に会いに行くといって無断で出ていってしまう子どもがいたりと、愛情深く支えてくれている先生方や人々に囲まれていても、親を超えることはできないのだと感じ、子どもが望む居場所とはなにか、考えさせられました。
大学ではさらに、子どもの行動特性や、心理検査の方法についてより深く学びたいと考え、副専攻制度を利用して、臨床心理学を履修しました。
発達障害を抱える子どもの問題なども学べたことは、いまの仕事にとても役立っていると思います。子どもに、抽象的な話は伝わりません。本人に寄り添い目線をあわせて話をすることが大切だと、聖心での学びを通じて実感しています。
また、ひとり親家庭の問題や貧困の問題についてフィールドワークをしたことで、自分の身に引き寄せて考えることが出来ました。そうした経験から、仕事をする上で、理想論から考えるのではなく、相手の立場に立って話を聞くことを第一に考えるようにしています。
すべての人たちにとって暮らしやすい社会をめざして
現在は、警察署の少年課で働いていますが、警察という男社会のなかで、子どもに対し、母親的な立場で接することが出来るのは女性の強みだと思います。女性警官にしか話したくないと言う子どもも少なくありません。
いちど道を外れてしまうと、偏見の目で見られることを気にして、外の世界に対し臆病になる子どももいます。そんな子たちには、目標を持つように声をかけるようにしています。そのため、捕まえて終わりではなく、事件後も学修支援や、職業体験に連れていきます。
聖心では寮生活をしていました。3,4年次には、自習室で公務員試験の勉強をしていましたが、職員の方が、手紙を添えたお菓子を置いてくれたり、声掛けをしてくれました。親元を離れていただけに、応援が身に染みて、頑張ることができました。そのありがたかった気持ちを、いま子どもたちに返しています。
職業柄、一般の方々と接するなかで、文句を言われて傷ついたり腹が立つこともあります。そんなとき、聖心で教わった、一人ひとりの人間をかけがえのない存在として大切にすること、どんな人に対しても優しさを忘れないことを、自分に言い聞かせています。
すべての人たちにとって暮らしやすい社会になるよう、聖心での学びを胸に、これからも子どもたちと真剣に向き合っていくつもりです。

- 人間関係学科
公務員(沖縄県警察)
人間関係学科 2020年3月卒業
※所属?肩書きを含む記事内容は、インタビュー時(2024年)のものです。